拝啓 君へ
鬱屈した 出口のない クリエイティビティで 体がはれつ しそうな君へ
どうしたんだい。この頃 ペースが落ちてるじゃないか
ストックがなくなったのかね
よければ、てつだいに行っても いいんだよ
今後の展開 期待してるよ とてもとてもとても
出来れば 最後には つかまってほしい
けれどもね
君が どんな奴だったのか オチを
知りたいから。
私は歩く。 殺したいと思いながら。
限りない優しさ。の私の体を通過した表現としての、限りない殺意。
限りない優しさ。の私の時間を通過した表現としての、限りない殺意。
決定的な事、決定的な事、
センチメンタルとは思い出をキープする為の物だとアントニオ君は言っていた。
私も同じ。私も考えてみれば、自分の中に持て余しているこの嵐をどうにかして手のひらの中に持ち出して、眺めて・・・・・・、
考えてみれば、それは何だったか?
生まれてから18年間吸って来た空気だ。私の肺は酸素も二酸化炭素もいっしょくたに砕いた。勉強して、東京の大学へ行こうとした。あの廃墟の中で、土ぼこりを巻き上げて、片足を引きずりながらもう一方の足をコンパスの芯にして、円を描き続けるのは嫌だった。
海があった 港があった 工場があった。
巨大な防塵ネットがあり、牛乳を流し込んだみたいに、まっすぐの新しい道があり、その両脇にはスクラップや砂の山があり、一階建ての集落や、ずっと閉められたままの倉庫がそれらを取り囲んでいた。
私は自転車でよくこっちまで来て、左右へ曲がるのは親や祖母から禁止されていた。その牛乳の線みたいな道だけは唯一のセーフティゾーンみたいだった。
そして一番西には川があった。川は無関心に流れ続けていた。どこか遠い所から続いている大きな川だった。
私は東京へ到着する事が出来たが、勿論人生はまだ続いている。それで上がりでもなく、故郷が消えてなくなるわけでもない。もはや東京に住み始めてから10年近く経ってしまった。栄養の無い上に汚染された、角が全身を貫くように幾つも生えたカブトムシでも出て来そうな(私はそれを愛するんだろうが)荒廃した土で、口の中まで満たされて行くような夢を今朝方見、これは故郷からの発信であると軽く咳き込み目覚めながら思った。
故郷からの嫌がらせ、もしくは注意勧告であると。さながらペトロの前に差し出された汚れた秩序の無い動物たちのように・・・・・
煤まみれのブルーシートの四つ角を持って、、、どっさりと、あの土地の土やら化学物質やらを持って、天使が私のもとに降り立ったのであろう。
葉子の肌に、モニターの光が霧のように入り込んでいる。画面にはこないだアップしたばかりのビデオ・・・。コアな部分は抜いてあるが。葉子はいくつものコメントを読む。
「君のビデオを見るとノンストップに達してしまう」
君と話したいのだが君は何も本当のことなんて言ってくれないんだろうな、心の底の声を聴くのは難しい---
というかそもそも、心には「底」なんかあるんだろうか
この世界みたいに、どこが本質かも中心かもわからないんじゃないだろうか 君の名前。君の顔。君を私の中に(人知れず、つねに)召喚するための、植え付けられた種。とても弱い種の 根だけ周りを全てパキパキに破壊するほどに強い、
やはりこの体がいけない、全ていけない。滅んで行くのも、閉じ込められるのも、泣きたくなるのも、この体ではないか。だけど否定ばかりしていても。この体をマッサージするのは楽しく・・・、この体を傷つけるのだって楽しいではないか?
私の小さな意識の話はどうでもいい。彼女を殴って言ってることを止めたくなった。時々そういう気持ちになる時がある。あの人は私を傷つける。意識なのか無意識なのか知らないが。そういう事態への、(これまで何度となく「怒って」きたが)一番無生産な、ゆえに差し引き的には一番生産的なリアクションは「驚く」ことだ。正直非常に驚かざるを得ない。
あいつが、どの程度現実界でやってくれるのか、見物だ。私が言っている現実界とはラカンの定義した奴ではない、自分の言葉での現実界だ。この現実界のある部分のコントラストを上げ、地獄に近い様な色彩に仕立てて欲しい。
ーーはラプンツェルであり、私を誘い(?)、私は助けた、と思うのだが(理想化し)結局私は幻滅し、何も現実では起こらないのだろうか>想像界では私は--する。この--部分はとても安易な欲望の現実化の表現であり、あえて言いたくもない。私は無くなり、とっても気持ちいい。私はHTRKのsweetheartを歩いている時にかける。カメラは私の一歩先を私を見つめながら進み・・・私は彼女の傷を砂漠で慰める。私は写真を撮ろうとする。内心を。
声を聴く。私は想像界では--の仕事なんかやっていない。そうとうキテるんだろう。これから生き続ける限り、どんどんキつづける。どっかで死ななければ。私はその年を設定してる。でもこれは実際、20の時の設定年数よりだいぶ延びた訳だが。どっちみち、最近毎日目が真っ赤だし、死ぬのが怖い、
音が遠のき、川で水浴びしてる男の子が見えた、太陽がそろそろ滅びかけながら沈み、
私が眼差した人物を私は滅ぼした 滅ぼしやすそうだったから
これまで滅ぼしやすそうに見せかけて滅びなかった全ての存在へのふくしゅうを込めて私はその子の体を丹念に何時間もかけて霊魂から離れさせた
霊魂から離れた後も、彼女の赤く腫れて時に様々なひもやタオルによって縛られた体はひくついて、高い声を出し、何かを求めていた。だけどこの時も、私を求めていたわけではなかった。
私の愛し方はエレガントではない。
ヨガの達人いわく、感情を排せば未来も見えるのだという、この不透明なごちゃごちゃしたものの中で目を細める。それから思う、それっていうのは多分未来が感情によって出来ているからだ。だから感情がない人間は見守ることしか出来なくなり、その代わりに何もかも出来る限り遠くまでがきっと見えて来る。でもやっぱり天使のように、「市長」のように、その物事自体には介入できないのだろう。
ある条件を満たした時に、これらのアクシデントは起こる。
私はこういったシステム的な考え方で何もかもを還元するのは好きでは無いが、一方で何も「テクノロジー」や「神の手」を挟み込まない限り、一定の条件を与えられた菌がその条件以上の増殖をしないことは良く知られている事実であり、それと同じ圧力が、実は自分のものに違いないと思っている「心理」を通して(欲望の大半は他者から感染したものであることは言うまでもなく)調整が行われている可能性もあるのである。
私は、私の街で誰かが刃物を持って街をウロウロする所までは想像できなかった。私が出来るのは警察を増やしたり公園や癒しの場を増やしたりといったことだけで、殺される者、打たれる者を直接助けるということは出来なかった。私はこの街に介入できなかった。私は環境を通して、この街に変化を与えていた。
私はハイヒールを深く突っ込みながら、少しずつ右手を上げて行く。やめて欲しいのか、続けて欲しいのかわからないような顔はスクリーンの全部を占めてもはや私の全てになる。私をいつも死にそうな気持ちにさせる薄く色の無い唇が開き、彼女の声が時々そこから聞こえる。私は動きを止め、彼女から言葉を引き出すのに成功する。それはとても陳腐なようだが重要な言葉達だ。私たちをくるむ泡は透明ではなく沸騰し始め、白濁している。私がいくら強く踏みしめても、彼女の体は尖った物質を飲み込んで行く、激しく
私は自分の足を切って解放される その足を見ているとそれは欲望そのものになり、もっと深く刺そうとしている。それから左手で彼女の足をつかみ、折り曲げて、二人の体は心とほとんど分離して、もはや痛みは感じない。私は彼女の体の上へ左膝と両手で這って行き、乗っかって、もう既に赤くなっている柔らかい部分を波立たせて行く 彼女は、終わることなく、その中にいる、体を持っているから。
私はいつものキスを受け入れ、それ以上に探り始めながら、彼女を殺したいと思う。
涙は?いつ流れるのだろうか?私はカインが好きだった、旧約聖書ではイブとカインが好きだ。カインは愛されたいのに愛されず、苦悩した。カインは俯き、顔を赤らめた。カインが捧げたものは見向きもされなかった。そしてカインが何をしたか?荒野で弟を殺した。私は何故こんなにクッキリその情景を思い浮かべられるのだろう?その血は大地にしみ込み、カインをうるさく責め立てた。
ぼくが猫を殺し続けたのは遊びのためではなく、楽しいためではなく、それがぼくが冷えて行かないために必要だったからだ ぼくの心理はぼくでさえわからず、ぼくが知っているのはぼくの体と顔でしかない。ぼくが何故、何かが好きか?どうして、それをやらずにはいられないのか?それは世界中の誰もわからない。それは闇のようなもので、意味からは一番離れた原則の中で、ただ現象しているものだ。
私の血管を力が打ち砕き、私は立ち上がり、私は純粋に楽しいと思う。私には下らない事しか思い浮かばなくなる。何かを殺していると。私の心は空っぽになり、その空隙の中に紫の煙が吹き込んで来るがそれは私をふくらませ、どんどん危険にさらしていくだけで、満たすという状況にはどこまで行ってもならない、私は奴らの体の単純さに真逆に撫でられ、恐怖し、苛つく。私は私のためにこれをやっているわけではない。私は猫と世界のためにこれをやっている。私はこれにその他の理由を与えたくはない。私はただやっている。魚を殺すなら、この殺し方は正しい。豚や牛を殺すなら、この殺し方は正しい。私は段々真理に近づいて来る様な気持ちになっていく、私は電話に自分の声を入れる。私は、こうやって神様と話す。私は、猫嫌いで衝動的にやっているようなものではなく猫が嫌いではなく、私は、もっと知りたいという私による要望のためにこの行動をとる。しかし、実際はわからない。それは闇の様なもので、世界中の誰にもわかるわけがないのだ。ぼくのむくな魂にすき間が出来て、そこにヒューヒュー空気が(あの肥料工場のイカれた空気が)吹き込んで来てイライラしてくるのでみっともない乞食の猫どもを一網打尽にする 本当ならば、もっと色々なことをして遊んでいるが差すがにそれはショッキング過ぎるかと思い、一般的な暴力性で満足している奴のフリをしていた ぼくは猫を、バイトしてた飲み屋で、あの肥料工場以上に
ヒドい匂いで生産性も無い口の中に食べられて行ったユッケのように切り刻み、そこには汚れた骨と、血だまりだけが残る
奴らは、目が欲しいから、猫を殺していたのだという。そんな幻影なんかはすぐ消え去るのに。ぼくは猫の目の上を滑り、猫はぼくを認識せず、領域侵犯を幾度となく行った。
ぼくのポイントと猫のポイントが重なり、猫はぼくに吸収された。ぼくは触った事もない程深く、肉の中に手を突っ込み、あらゆる匂いにまみれ、その粘り気の中に浸って生気を取り戻す植物だ。絶え間ないのだとすれば音で、ぼくは首を折り曲げ、ゼイゼイ普段の奴らからはきけないような変に人間的な音を立てるだけでもはや何も言えそうになく、目だけはこっちに必死に向けて来るその機械を、切り開き、つかの間まだ動いている心臓を見るのが好きなのだ、
それは、何でだろう?ぼくはこの冷えきった気持ちを、一生、死ぬまで解明することは出来ないだろう。ぼくはヤケになって殺しているわけではない。僕は常に余裕であり、準備万端で、ぼくはただ示しているだけで、残酷性を体現しているだけ。
物を見ない人間が生理的に無理な匂いでやっと気付くために、召喚されたのだ。
しゅんは道に寝転ぶと、その冷たさと固さ、引っ掛かって来る荒々しさを感じ、そこから乾いた真っ白な、100%の月を見た。月はしゅんとただ向き合っていた 街には誰もおらず、風の音だけが聞こえていた 呼吸をすることは、生きる事に近く、鼓動することも近く、反応し、吸収することも近い。
考えることは、それほど必要とせず、目覚める必要さえない。感じる・・・、それは極めて決まりきった反応の中で処理される
ぼくが何をしても、この街では悪人には成らない。
悪人になる前にきっと、被害者になっている。
皆、ぼくの生きる意欲は、何処へ行ってしまったのかって顔をする だけど
神は小鳥を養っているではないかとイエスも言っていた。
その言葉を思い出すといつもホッとする。
しゅんはボロボロの顔で笑った。誰しも戦っている。誰しも誰かを求めている。心の中には、色んな物がすみついてあるものは笑い、あるものは呪ったってだけだ、そこにはそれ以上の真理はないだろう愛さざるを得ない人っているもんだ 差し込みプラグにはNO.6と書かれて薄汚れてる ぼくは殴り書きする 何度も手紙を書いた 相手がブラックホールみたいになった後は、その果てなさの中へと 手紙はくるくる回りながら落ちていった ゆっくりと
私はホラー映画が好きではない。格闘ゲームが好きでは無い。私は戦争映画や映画の中で人が死んで行くシーンが大嫌いだ。私が好きなのはシムシティだ。街を作るシュミレーションゲーム。どこから手に入れたのか、多分親戚の家から借りたままだったんだろうけど、小学生の頃、ハマり出し、夏休みには、あのゲームを朝から親が帰って来るまで一日中ぶっつづけでやってた。
シムシティは「シム」という存在たちの街だ。私は市長になり、街を何も無い土地からメトロポリスに発展させていくという使命を持っている。何種類かの地形の中から好きなものを選び、街の名前を決めるところから始まる。それから、火力発電所か、原子力発電所のどちらかをドカンと穿つ。その後、家を作り、商業地帯を作り、工場地帯を作る。そしてそれらを電線や、道路や線路でつなげて街が機能するようにして行く。警察署や消防署を設置し、税金を設定する。人口が多くなると、スタジアムを建てたりカジノを建てたり出来るようになる。
基本的にこのような順序。だけど例えば、娯楽施設が増えると人口も増え税収は多くなるが、一方で治安が悪くなったりもする。工場が多くなると、公害が発生してしまうので、緑や公園を住宅地の周辺に作って問題を解決する。だからそもそも工場は住宅から離れた海側に作った方が良いこともその時覚えた。しばらくすると内陸では隣り合った家同士が発展し、高層マンションになったり、商業地が大企業になったりしていく。地価が上昇して、住民が不満の声を上げたりする。工場地帯はもくもくと煙を上げ、もっとへウ゛ィに、インダストリアルに、人畜有害になっていく。私は自分の街を個人的なテーマに沿い、丁寧に理路整然と作るのが好きだった。平和な街や、時には人のいない街を作った。大きなが海へ流れ、土地と土地の裂け目・・・、それはつまり川なんだろうが、そこに船がいつの間にか現れた。道路には車を表す点が増えて来て渋滞するようになったので、不条理な、つながっていない線路を点々と作った。シムたちはそれでも満足する。作っていて急に、ハリケーンが来る時もあるし、ゴジラが来る時もあるし、時にはメルトダウン(これが最低最悪のシナリオなのだが)が起こる時もある。だけど、シムシティの土地は、どこからも孤立していて、外側がどうなっているのか、わからない。
現在、こうやってこの距離から街の犯罪情報を見、グーグルマップで上空から様子をチェックするのは、きっとそのゲームの感覚を呼び覚ましている。
あの辺は最初から私の興味を惹くものではなかった。魂にこんなに触れるものではなかった。色んな時代があり、色んな人たちが住んだ。何十年、何百年、かけて、多種多様な条件が重なって、段々と、時には急激に変化し、今のあの街になった。そして私はちょうどこの時代にこの年になりこの街とこうやって遭遇した。
晴れた日、7月、しゅんが、いつものように学校をサボって中心から外れた、No.67工場近くの空き地でしゃがんでくろを撫でていると、その上を、昇井川飛行場へ、ベトナムからの軍用飛行機が辺りを振るわせながら、ゆっくり移動して行った。そのずっと上から、宇宙の人工衛星も彼らを見ていた。そこには動物はしゅんとくろとしかいなかったから。白いシャツと黒いズボン=夏服姿のしゅんが両手でくろの頭をやさしく包むと、くろは気持ち良さそうに目をつぶった。
空き地の土はほとんどカラカラに乾いていたけれど、空から線路を押し当てたみたいな痕が全身にあった。そこだけには水が溜まって光の穴が空き、不思議なほど雲を映していた。冷えた感触がし、土にハマっている薄緑の単純な形の生物が一斉に、さらさら動いた。それからしゅんの刈り上げた黒い髪も、いま、くろに彼がしているみたいに、誰かが撫でているような気が、くろにはした。
しゅんはくろから手を放し、立ち上がった。くろが体を捻り、何処かに行きたそうにし始めたからだ。くろはしゅんと違い活発な性格なので、しゅんはそれを尊重している。くろはすぐ何処かに駆けて行き、しゅんはそのまま座り込むと、鞄を引き寄せ、国語のノートに鉛筆で、今いる空き地と、そのむこうにある、工場の絵を描き始めた。
一時間ほど経っただろうか、雲が太陽を隠し、集中しているしゅんの顔に影が落ちた。何かの音が、街の方で聞こえた気がした。しゅんは街の方を振り返った。それと共にしゅんの心に、工場のけたたましい動作音と、たちこめる化学物質の臭気が蘇り・・・それは耐え難いほどのものになった。しゅんは立ち上がると荷物をまとめ、体の半分くらいはありそうな白い布製の学校指定鞄をゆらゆら肩にかけながら、空き地の前に首を傾げて止まっている、自転車の方へ向かった。
自転車を走らせると、そこかしこに土の山が盛られている一帯が動いて行く、それから橋を通り、街へ出る。途中で右に曲がると倉庫街と小さな港だが、こっちの方ヘは滅多に行かない。
ふと気配を感じ、しゅんは山が盛られている一帯のある場所で止まった。まだこの土の中から、何かをとろうとしている途中なのだろうか。その辺にはいつまで経っても同じ格好で、気絶したショベルカーや、地下から掘られたまま白い泥が固まりついている、巨大な骨みたいなパイプが転がっていた。もしもメカの犬がいたら、涎を垂らしそうだ。
しゅんが止まったまま、カラカラと自転車を空転させて、右を向くと、そこには細い道があり、日射しの中、くろが、一匹で、こちらを見ているのだった。倉庫街が遠くに見えた。
しゅんはしばらくそのまま止まってくろを見ていた。くろもこちらを見ていた。しゅんはくろに向かって手を上げると、再び自転車を漕ぎ、走り出した。
この街は異常だった!そして何の変哲も無かった!私の愛する二人の少年少女は、この街で、純真さの欠片もない、卑劣な博士に作られた!1990年の11月と、1995年の8月のことだった。私は今、唐突に、フランケンシュタインを思い出す。どうして生まれたのか?そう、これは比喩ではなく最新のプロメテウスについての話だ。
二人のいるこの街では、落ちている物を食べた犬や猫や鳩が道ばたに泡を吹いて転がっているのが、一年に何匹、何十匹も発見される。一年だけでは、一人の特別に残酷な人間の仕業かもしれないし、何人もの人間による偶然行われた同時の犯行かもしれない。ただ、ここ十年間でみるとそれは、ハッキリ結果に現れて来る。それはどの年にも常に存在する。それはもはや百件に近くなる。
この街には、猫や鳥に餌をやる人間が沢山いる。公園で、家の前の狭い道で、空き地で、駐車場で・・・動物は餌を求めて集まる。集まり、増え、我が物顔で周辺を荒らす。糞をし、引っ掻き、別の人間達の迷惑になり、怒らせる。怒った人間の中の誰かは、ギザギザの罠をしかけ、食べ物に庭の害虫駆除にしか使わないような薬をを混ぜる。猫を仕留め、見せしめにその辺に置く。もしくはそれは、怒りでさえないのかもしれない。それは、無意味な、エラーとでも言えるほどの行動の結果なのかもしれない。それまで餌をやっていた者が、ふと心の闇に捉えられて、やるのかもしれない。
街について二番目に言いたいことと言えば・・・街の左頬に切れないカミソリでギリギリ引きずった跡のように川が流れていて・・川の南には海があった。そして海岸やせり出した半島はコンピューターをぶっ壊した時に出て来るカチ割れて垣間見える、細かな精密回路のように工場で固められていて・・・、一体どんな巨人の侵入を警戒しているのだろう?・・・野球場の二倍くらいはある、馬鹿でかい柱と防塵網が、その一帯をまるで隠すように囲み、むしろ異様に目立たせていた。この広大な工場地帯全部さらってみても、住んでいる人間は0人。だからこの街の半分ほどは人口0人の土地になる。この辺を車で流すと、どの道を行っても人気はなく、その両側に、一メートルくらいの茶色の土の山が、点々と作られている。たった今、何かを埋葬したかのように、厳かだけど理解しがたく。夜は真っ黒になり空気が視界を覆うものに変化し、時間が無くなる。空を刺す沢山の煙突。迷路みたいな倉庫街。海浜公園が一つあり、そこに行ったことはない。
一方、その川を上っていくと、人間が住む街があって、工場地帯から流れて来る匂いでなのか、どこへ行ってもいつもいつも何かが焼けこげたような変な匂いがした。この匂いは、他で嗅いだ事はない匂いだ。この匂いが、この街の呼吸する生物たちの思考と行動に、影響を与えていることはほぼ間違いなかった。いや・・・似てるものが、もう一つある。電波塔だ。この街の風景に時々紛れ込んで来る、あの。パチンコ屋とかトイザラスとかジャスコとかケンタッキーとか特性のないものに紛れて、紫と赤と白の奇怪で巨大な電波塔が、この街にはてんでバラバラに立っていた。うつぶせに埋まった古代生物の背骨のように、包帯を巻いたみたいにシマシマの、ぶっといプリプリした電線に貫かれ。一度この電波塔の意味を考察するため、地図を片手に、一つ一つ位置にマークを付けて歩いて行ったことがある。しかしそれぞれの配置を最後に結んでも、何ら効率的な形を成さないのだった。電線の行き場は地図では海になっていた。実際に行ってみると三角形が何重にもついたアンテナを生やした、四角い白い建物がその始点なのだった。その建物は、四隅フェンスで覆われて、明るい日射しの中、祠のようにただ、そこにいた。不思議にクッキリとした菱形の影が、トラクターやらシャベルカーやらが打ち捨てられた、何方向にも線が付き化膿した明るい地面に浮かんでいた。
きっと、住んでいる誰も、この電波塔の法則性には気付けない。・・・それどころか、もしかしたらこの街の住人は、あれを、「見ること」さえ出来ないのかもしれないとも思う。だって、あんなものがあちこち野放しに建っているなんて、一般的に考えたら、明らかにおかしいもの。
この電波塔は、しばらくは私の個人的問題であった。だからもう一つの問題である、あの家を知ってから私は、ふと、その位置を青のマークで、既にある電波塔の配置地図に加えたのだった。この街の中にあって、唯一、重要と思える感情を動かされる地点。家は、13番塔にとても近い場所にあった。相当拡大しなければ、ほとんど同一地点と言っていいほどの近さだ。あいつがいつ頃からあの辺に棲み着いたかは私は知らない。ただ、奴の体の一部によって二人が作られたことは本当だ。だから二人はずっと、自分達が奴の所有物だと疑わなかった。
だけどある日、とうとうあいつが彼女を、処分すると知った私は、狂った実験室に忍び込んだのだった。台の上で目をつぶっている彼女の体を、ゴーグルとレインコート姿で火花を散らしながら切り開こうとしている。息をひそめ・・・、気付かれないように中に入ると、後ろから・・・、一突き。気絶させると、ぐたりと珍しいほど無害な様子で床に眠っているあいつの両脇に手を入れて、ガチャンガチャン散らばったものを倒しながらぐいぐい引きずって、実験室の真ん中の柱までなんとか移動させた。そして時間をかけてぐるぐる巻きとは行かなかったが、奴の片足だけ、手錠でしっかりそれに括りつけた。
彼女だけではなく彼とも一緒に逃げなくてはと、すぐに、他の扉を全部開けて彼を探した。だけど、どこにも見当たらなかった。一体どこへ行ってしまったんだろう?どうしようもなかった。遠くの場所で彼女が起きてから、彼女に聞くのもありだと思った。何より今ここにこれ以上いたくなかった。だからとにかく彼女を盗み出した。
彼女は生きてるかどうかわからなかった。目をつぶっていた。彼女の胸は開いていて、中から回路やコードが溢れていた。私は自分の上着を脱ぐと、彼女にかぶせてから、それでもはみ出た部分が心配で、袖を前で縛り付けた。そしてタクシーに乗ると、命からがら、飛び出した。
タクシーの中は冷蔵庫のように肌寒く冷たかった。あいつが一体いつ目覚めるのかを考えると、すごく怖かった。それから残した彼のことも。彼は大丈夫だろうか?とても心配だった。雷が鳴り、突発的な嵐がこの街を覆った。雨が窓を打った、さまざまな色の光が硝子や、私達の皮膚を滑った。彼女は私に寄りかかって目を瞑っていた。薄い唇が少し開き、色が無くてとても可愛かった。遠くにいるように思える、ロボットみたいな運転手の前で、視界が鮮明になり、すぐに輝く雫で全てが覆われた。それは完全に遊園地であるように見えた。私には確かな重み、存在の感覚があった。目を瞑って、彼女をもっと徹底的に感じたかった。だけど目の前でカチカチと時計のようにずっと変化する暗闇の中の宝石のようなフロントガラスを見ていると、そう、まだ全ては始まったばかりなのだと思った。